自分の気持ちに素直になる
八方美人でいいと思っていた「わたし」の存在を大きく揺さぶった出来事は、今思い出しても不思議な気持ちになります。
学生のころから十何年という月日を「わたし」として過ごすことで、自分=「わたし」だと同一視していました。
でも、本当は全然違っていました。
わたしは「わたし」という存在とは全く違う、弱くて怖がりで臆病で素直じゃない小さな子どものままでした。
そんな自分でもすっかりわからなくなっていた本当のわたしを見つけ出して叱りつけてくれたのが、今の恋人さんでした。
相手にとって損がないように、心地良い言葉を意識することなく選ぶようにしていたわたしに対して、本当はどう思っているのか、自分の気持ちを自分の言葉で考えるように促してきた人は他にいませんでした。
「たぶんこう言った方が相手は気負わず済む」と思えば、特に何も考えなくてもその言葉を自然と選んでいたので、本当にわたしがそう思っているものだと勘違いをしていたのです。
そして、自分を偽っている自覚もなければ、指摘されるなんてこともない緩やかな付き合いをしていたので、言われなくても当然かもしれません。
でも、恋人さんは他とは違い、指摘してきました。
自分の気持ちに素直になりなさい
自分の気持ちがわからなくなっていたわたしにとって、その言葉は難しいものでした。
自分自身が今どう思っているのか、いちいち道筋をつくって考えないと導き出せない状態だったからです。
体調が悪くてしんどくて心細い時にでも心配かけたくないからと「大丈夫」と言うのではなく、「風邪引いたからしんどくて心細くて寂しい」と言うのが君の今の素直な気持ちでしょ、と恋人さんは教えてくれました。
誰にも頼ることができない。
自分ひとりで何とかしないといけない。
そう思っていたわたしにとって、寂しいという言葉は思うだけ無駄なことでした。
でも恋人さんは、わたしよりもわたしを分析して理解した上で「それは違う」と断言しました。
誰よりも寂しがりで構ってほしい気持ちが強いわたしの本質を見抜いていたのです。
自分というものをまるでわかっていないわたしに対して、根気強く言葉を選んで、本当はどう思っているのかを言えるように促してくれました。
それは、決して言葉を誘導するものではなく、ちゃんと自分の言葉になるまで待ってくれるものでした。
わたしが頼りたいと思える人に、恋人さんの名前が上がるようになったのはその頃からでした。
というわけで、自分の気持ちに素直になる、という話でした。